親御さんがお子さんの矯正相談に来られるとき、多くの方が『見た目』を気にして来院されます。顔立ちは口元で左右されるというほど歯並びは大切なものなので当然のことなのですが、実は、歯並びをよくするということは見る、聞く、話す、伝える、考える、感じる、我慢するなど社会での生きる力を養うだけでなく、噛む、飲み込む、呼吸するなど、人間として生きていく上でとても大切なものです◼︎見逃しがちな顎の成長

なぜここまで、歯並びが関係するのかというと、歯並びが並ばない本当の原因が顎の成長不足だからです。歯の大きさはほぼ遺伝で決まっていますが、歯が植っている顎の大きさは、赤ちゃんの時からの生活習慣によって変わります。

歯並びの問題はこの歯の大きさと顎の大きさがマッチしない時(顎の成長不足)に起こるのです。

 

特に上顎は目や鼻の骨ともつながっているほどの大きな骨で、

顎が成長できていないということは、鼻や目の骨もきちんと成長できていないということになります。特に鼻は生きるために必要な呼吸をする場所、鼻が成長できていないと、脳に必要な量、酸素を届けることができません。

酸素は脳にとっての栄養なので、酸素不足が続いた結果、脳(前頭前野)の発育にまで影響を及ぼすのです。

また、鼻が育っていない(🟰顎が育っていない)と鼻詰まりを起こしやすく、慢性的に鼻が詰まっている、薬を手放せない、常にぼーっとしている、人の話を集中して聞けない、口呼吸になり風邪やインフルエンザにかかりやすい、眠りが浅く朝起きられない、など、日常生活に沢山の支障をきたしてしまいます。

2018年口腔機能不全症候群という『話す、噛む、飲み込む』というお口の機能が育っていない子供達につける新たな病気の名前が生まれました。新たな病名というのは簡単につくものではありません。みなさんも給食の誤飲事故のニュースを耳にしたことがあるかと思います。食材を小さく切ったりする対処法が取られていますが、これはお口の機能(飲み込む力)がきちんと育っていないことが根本的な原因ではないかと思います。長年、子どもたちの歯並びを見ていても年々顎の大きさは小さくなっており、赤ちゃんの時から歯並びがガタガタになっているという子も多く目にするようになりました。

 

手や脚、身長は高校生くらいまである程度決まった長さまで伸びてくれますが、顎の骨の成長はそのメカニズムが少し複雑で放っておいても成長してくれません。

しかも顎の骨の一部には6歳までに8割が完成してしまうものがあります。『見た目だけの歯並び』の問題であれば、大人になっても整えることはできるのですが、飲み込む力、噛む力呼吸する力を備えた歯並びを育てるためにはできるだけ早い段階で歯並び(口腔)育成を行う必要があるのです。

 

隙間なく並んだ歯並びを見て『うちの子は歯並びがいい』と思ている方もおられますが、永久歯は乳歯の1.5倍。乳歯の時にすきっ歯でないと将来永久歯はきれいに生えてこられません。きれいな乳歯列(顎がきちんと成長して永久歯が生える隙間がある歯並び)はこちら(写真)

赤ちゃんの頃から歯並び(口腔)育成を行う方にとってはこの歯並びが一つの『目安』ゴールとなります。

乳歯が全て生えそろっているお子さんで以下の歯並びをされている場合は、顎の成長不足が考えられます。3歳以上のお子さんですと、口腔育成装置、矯正装置を使ってのサポートが可能になりますので心配な方はお早めに無料相談をご予約ください。

 

(ディープバイトの写真)(空隙がない写真)(ソウセイ写真)すり減りのある歯の写真

 

上顎の成長に欠かせないのが舌の力です。 

これは生まれたばかりの赤ちゃんのお口の中、舌がピタッとくっついていますよね?このように舌は本来上顎にくついているもの。おっぱいを飲むときにベロを上顎に押し当てる力や、日常的に舌が上顎を押すことで、顎はきちんと成長していきます。またベロの大きさは月齢ともに大きくなっていくので、ベロが上顎についていれば、ベロの成長とともに自然と顎は必要な大きさに育っていくのです。

 

しかし、多くのお子さんのベロは生後数ヶ月の時点で上顎につかなくなルコとがあります。それは姿勢の問題です。分かりやすいように一緒にやっていただきたいのですが、姿勢を良くして顎を引いた時と、顎をあげた時、どちらがベロが上顎につきやすいですか?顎をあげるとベロが喉の方に引っ張られる感じがしますよね?

舌というのは実はとても大きい筋肉、筋肉は全て複雑につながり連動して動いているので、体の姿勢の状態でその位置が変わります。

 

街中で抱っこされている赤ちゃん、首がこのようになっている子を見かけたことがありませんか?この状態だとベロが上顎につきません。顎が成長しないだけでなく、ベロだけが大きくなることで、上顎への収まりの悪さから、ベロが喉の奥に引っ込んでしまいます。(赤ちゃんのいびきはこのようなメカニズムで起こりうます)

ベロが喉の奥に引っ込んだ状態だと気道が塞がれ呼吸が苦しくなります。人間が生きるために一番優先されるのは呼吸のため赤ちゃんの体は生きるために、さらに顎を上げたり、そりかえったり、うつ伏せ寝をしたりしてなんとか気道を確保しようとしているのです。

片側ばかりを向く赤ちゃんをなん度まっすぐ寝かせようとしても、また元に戻ってしまうのは、呼吸ができる姿勢を自分で作ろうとしていることも原因の一つです。

 

頭の形は顎の形にも影響するため、頭をまんまるに育てることも大切です。詳しくは実践編で解説をしています(具体的な方法は診療の中でお伝えしています)

酸素が充分量、体に行き渡らない状態が長く続いていると、赤ちゃんの体はしなやかさが消え、体が硬直していきます。(体が緊張している原因は他にもあります)股関節や足首も硬いため、指を使ったハイハイができません。指を使ったハイハイは土踏まずを育てる土台となる動作なので、体の柔らかさはとても重要なポイントです。また気道確保のためのそり返り姿勢を長く続けることで、筋肉がズレた位置で発達し、大きくなった時にも顎を上げて呼吸をしないと苦しいという状態が続いてしまいます。猫背の問題は幼稚園や小学校に入学する頃に気になり始め、思わず注意したくなりますが、これは本人のやる気がないわけでも、だらしがないのでもなく、体が無意識に呼吸が一番取り込みやすい姿勢を取ろうとしているのです。体に表れている現象は常に生きるために一番楽な状態を作っているだけなのです。

ここまで、歯並びの問題=顎の成長不足が引き起こす体への影響を詳しくお話してきましたが、これからどのようなアプローチを成長段階に分けてご説明します。ただ、赤ちゃんの成長発達は1人として同じ子はいませんし、子育ての環境も皆違います。全てを完璧にする必要はありませんし、これからご説明する方法が理想の方法というわけではありません。各家庭によってベストは違うということを必ず念頭においてください。方法論に縛られてしまうと、子育てがとても苦しくなり、貴重な子育ての時間を楽しめなくなります。前述した通り、子育てで何より大切なのは、お母さんの心が柔らかく、笑顔でいられること、お母さんが不安でいっぱいで、自分を責めていると、赤ちゃんの体も硬くなってしまいます。難しいことも沢山書かせて抱くので、矛盾しているように感じるかもしれませんが、どうか『なるようになる』という楽な気持ちで取り組んでいただければと思います。